名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)131号 判決
所論の要旨は被告人は岡山県久米郡西川村(昭和二十八年三月三十日総理府告示第七七号による市町村廃置分合に基き同年四月一日より旭町となる)に対し外国人登録法に基き切替外国人登録証明書の交付方申請手続をなしこれが受理されたものなるも、同役場の事務の整理上右証明書の交付を受けることを得ず同役場において新登録証明書ができたときはこれを被告人の新住居に郵送する旨の了解があつたので被告人は大阪の知人方に移転したものである。その後被告人は住居を定めて同役場に対して新登録証明書の送付方請求したるも送付がなく、更に被告人は昭和二十九年十二月末頃京都市の知人宅を居住地と定め前記西川村長に対し新登録証明の送付方依頼したるもこれまたその送付がなく為に被告人はこれを携帯するを得ないものである。すなわち被告人は自己の責に帰すべからざる事由によりこれを携帯することができなかつたものであるから被告人に対しては外国人登録証明書不携帯罪は成立しないものであるというにある。
よつて按ずるに伊藤巡査作成の登録事実照会回答についてと題する書面及び当審において取調べた岡山県久米郡旭町長杉山朋一作成当裁判所宛の回答書によれば被告人は岡山県久米郡西川村長に対し昭和二十七年十月二十八日外国人登録法施行に伴う登録切替による登録証明書交付申請書を提出したるも、これに必要な被告人の写真を提出しなかつたため右村長よりその提出方の催告を受け被告人は同年十一月二十日写真を提出したるにより同日右申請が右村長において受理され同日登録(登録番号643667号)されたこと、右西川村長は登録証明書の交付予定日を同月三十日と定めて受領方を被告人に通知したるも被告人は受領のため出頭せず右村長は更に昭和二十八年二月十日までに再三受領を促したるもこれまた被告人は受領のため出頭しなかつたこと、の各事実が認められる。被告人は右西川村役場に対し新登録証明書を被告人の定めた新居住地に郵送するよう依頼し、その旨の了解を受けた旨主張するけれども前示岡山県久米郡旭町長の当裁判所宛回答書によれば西川村役場当局者又は西川村長において被告人の新居住地に新登録証明書を送付することを被告人に約し、又はその他これに類する事項に関し、被告人に何等かの了解を与えたものとは認めがたく、しかのみならず、本件は外国人登録法附則第八項による登録証明書切替の場合と認められるので被告人は同法第十一条により旧登録証明書を自ら返納するか疾病その他身体の故障により自ら返納することができない場合は同法第十五条の規定する代理人によりこれを返納して新登録証明書を受けなければならないのに被告人が毫も敍上法定の手続を遵守しなかつたことは前示旭町長よりの当裁判所に対する回答書及び被告人の原審公廷における供述により明らかであるから、西川村長において新登録証明書を被告人の新居住地に郵送しなかつたのは手続上当然といわなければならない。なお右旭町長の回答書によれば被告人は昭和三十年二月十五日附書面をもつて京都市より西川村長(当時は旭町長)宛に新登録証明書の送付方請求をなしたことは認められるも、これに対し当時の旭町(西川村等合体)役場より昭和三十年三月十三日附書面をもつて被告人に対しその請求に応じ難い旨及び被告人の居住地たる京都市右京区役所に赴き事情説明の上手続をされたい、同区役所より請求があれば登録原簿を同区役所に送付する旨の回答があつたことが認められる。それゆえ被告人において西川村長より新登録証明書の郵送があるものと信じていたものとは到底認めることができない。
また現行犯人逮捕手続書によれば、被告人は昭和二十九年九月中旬頃大阪市西成区内において登録証明書を遺失したるにより大阪府西成区警察署に遺失届を提出した旨、被告人の司法巡査に対する供述調書によれば、被告人は旧登録証明書を持つていたが昭和二十九年二月に大阪に戻り何時何処で落したか登録証明書がないので大阪府住吉警察署及び同府西成警察署に遺失した旨届出、また岡山県久米郡西川村役場(町村合併により旭町役場)の方にもその手続をした旨供述し居るも当裁判所で取調べた大阪府住吉警察署長及び同府西成警察署長並に岡山県久米郡旭町長より当裁判所に対する回答書によれば被告人は大阪府住吉警察署、同府西成警察署、右旭町役場に対して昭和二十九年二月以降登録証明書の遺失届は勿論盗難届も提出したことがないことが認められる。若し被告人において旧登録証明書を紛失、盗難、又は滅失に因り失つたことが事実なればその関係警察署にその旨届出をなしその証明を得て所定の手続をなすべきに何らその手続もなし居らざることが認められる。なお外国人が居住地を変更しようとする場合には現住地の市町村長に対し、居住地変更届書を提出しその届出のあつたことを証する文書を請求し新に居住しようとする市町村長に対し、登録証明書及び右証明書を添えて提出し登録証明書の居住地の記載の書替を申請しなければならないのに当裁判所で取調べた大阪市西成区役所、京都市市長公室長松島吉之助、名古屋市役所、岡山県久米郡旭町長より当裁判所に対する回答書によれば、被告人はその居住し又は居住した大阪市西成区、京都市、名古屋市は勿論何処の市町村長にも昭和二十七年以降居住地変更に伴う登録証明書の居住地の記載書替を申請した事跡が認められない。外国人登録法第十一条によれば登録証明書の有効期間は交付の日から二年と規定され右交付の日とは現実に交付された日及び交付されるべき日と解するを相当とするところ、前記西川村長は昭和二十七年十一月二日被告人の外国人登録原票の作成をなしその証明書交付予定日を同月三十日と定めて被告人に通知したことが前記旭町長の回答書により認められるので被告人の登録証明書の有効期間は昭和二十七年十一月三十日より昭和二十九年十一月二十九日までなることが明らかである。従つて被告人は右登録証明書の交付を受けた上外国人登録法第十一条に基き新たに登録証明書の交付を申請しなければならないのにこれまたその手続をなしたことも認められない。また京都地方検察庁総務一課より敦賀区検察庁宛電信回答の訳文書及び被告人の検察官に対する昭和三十年三月二十三日附供述調書前記旭町長よりの回答書によれば被告人は昭和三十年二月九日京都地方裁判所において外国人登録証明書不携帯罪により罰金五千円に処せられた(同年二月二十四日確定)ことが認められるも被告人はその後においても何等の手続もなし居らざることが記録上明らかである。
以上認定の事実によれば岡山県久米郡西川村長は被告人に対し登録証明書の受領方再三促したるも被告人は遂にこれを受領せず登録証明書を携帯しようとする誠意の認められる点毫もなく、原判示のとおり登録証明書を携帯しなかつたことは被告人が右西川村長(昭和二十八年四月一日以降は旭町長)より受領し得られるのにこれを受領しなかつたことに基因するもので全く被告人の責に帰すべき事由によるものなることが明らかである。およそ外国人登録法第十八条第一項第七号によつて処罰する同法第十三条第一項の規定に違反して登録証明書を携帯しない者とは、故意に右証明書を携帯しない者ばかりでなく、過失によつてこれを携帯しない者をも包含する趣旨と解すべくそしてこれを携帯しないということは登録証明書の交付を受けているに拘わらずこれを携帯しなかつた場合は勿論登録がなされていてその証明書を何時にても受領し得る状態にあるにかかわらず本人の故意又は過失その他本人の責に帰すべき事由によつて交付を受けないで携帯しない場合も包含するものと解するを相当とする。本件についてこれをみるに被告人は前説示のように所轄村長より再三登録証明書の受領方を促されていたもので何時にてもこれが交付を受け得られるにかかわらず全く被告人の責に帰すべき事由によつてその交付を受けないでこれを携帯しなかつたものというべきである。従つて原判決がその挙示の証拠によつて原判示事実を認定し処断したのは正当であつて原判決には法令の適用に誤りはない。論旨は理由がない。
同第二点(法令適用の誤)について、
所論は、被告人は京都地方裁判所において外国人登録証明書不携帯罪により罰金刑に処せられその罰金調達のため福井地方の知人の所に赴く途上同罪により逮捕され二重に本判決を受けたものであるというにある。
原裁判所で取調べた京都地方検察庁総務一課より敦賀区検察庁宛電話回答の訳文書及び被告人の検察官に対する昭和三十年三月二十三日附供述調書によれば被告人は外国人登録証明書不携帯罪により昭和二十九年十二月二十二日京都市において逮捕され同月二十九日京都地方裁判所に起訴され昭和三十年二月九日同裁判所で罰金五千円に処せられ、該判決は同月二十四日確定したことが認められる。また原判決挙示の証拠によれば被告人は右判決確定後も継続して外国人登録証明書を携帯しなかつたことが認められる。かように有罪の確定判決後における外国人登録証明書不携帯はたとえそれが既判の犯行と同一罪名に触れしかもこれが継続している場合といえども独立の犯罪が成立し新たな起訴の目的となるものと解すべきであるから原判決が「朝鮮人である被告人は外国人登録証明書を常に携帯しなければならないのに拘らず昭和三十年三月十五日午前零時五十五分頃敦賀鉄道公安室で携帯しなかつたものである。」と認定し処断したのは正当である。被告人は罰金調達のため福井地方の知人の所に赴く途上逮捕されたものである旨主張するも記録に徴しこれを認めることはできない。またたとえそうであつたとしても本件犯罪の成立に消長はない。従つて原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫 判事 木村直行)